人気ブログランキング |

2014年 05月 16日 ( 1 )

もう、10年も前に書いた話・・

b0057140_112541.jpg


-1-

小学校4年のエリは、魚釣りが大好き。

お母さんは「女の子が、いつもサカナ臭いニオイをして・・」と毎日あきれ顔。

でも、週末にしかなかなか話のできないお父さんが教えてくれた、エリの
ささやかな楽しみは、誰に言われようと、やめるつもりはない。

いつも行く近くの池で一緒に釣りをするススム君が、ある日エリに言いました。

「ここで、虹色のサカナが釣れるんだってさ・・。ケンタが言ってた」
「そうなの?アタシも釣りたいなぁ・・」

それ以来、エリは宿題もそこそこに、夕方まで池にいました。

「今日もダメか・・・」

夕焼けが赤から紫に変わろうとする空の下、エリは小さな魚の入ったバケツを持って、
なんとか駆け足で家路を急ぎました。



-2-

その夜、エリは夢の中でも釣り糸を垂らして池のそばにいました。

「どんなサカナなんだろう・・・虹色のサカナって・・」

きらきらしたサカナ・色が次々と変わるイルミネーションみたいなサカナ・
そのまま虹の橋になりそうな、ながーいサカナ。

エリの想像は膨らむばかり。


すると、釣り糸が、「つんつん」と動いたような気がしました。

「あれ・・?」

でも、竿をあげても、手ごたえがありません。するとまた

「つんつん」と糸が引かれます。

「なに・・・これ?」

ウキを確かめよう、と竿を立てたその瞬間。背中から、なにかが光っているのがわかりました。

エリは振り返りました。

池の土手の向こうに、まるで日の出のように、白っぽい丸いものが見えました。

「なんだろう・・」

その丸いものはすこしずつ「登って」くるようで、光も増してくるようでした。

エリがちょっと身構えたとたん、白いものの中に、黒いものが見えました。

「あ!」

まんまるい黒い点は、まさしくサカナの目にみえました。
そして、それはちょいと「ウインク」しました。

土手に近づくと、エリはまた「あ!」と叫んだつもりでしたが、
それはほとんど声になりませんでした。だって、そこには、まさしく
白く光ってはいましたが、目が慣れるにつれ、虹色の模様の
あるサカナが「寝そべって」いたのですから。

まるでマンガのように、細い足や手もあるけど、確かにエリの身長よりも
5倍くらい大きなサカナが、眠そうに寝転んだままエリを見ていました。

「うそ!・・・・これが・・・あの虹色のサカナ・・?」


ー3-

「・・・・あんた、ワシが見えるのかい?」

「え・・!」サカナがしゃべりました。エリは目をまんまるにしてしまいました。
「おサカナさん・・・お話できるの・・?」

「いやはや・・・」虹色のサカナは頭部を支えていた手をはずしてゆっくりと[起き上がり]
ました。尾びれは横にしたまま、「お嬢ちゃん、ワシが見えるとはね・・これはたまげた」

大きくて、ちょっとこわい感じはしたけど、エリは、予想していたよりもはるかに
いろんな色に輝いてみえるサカナのうろこをじっと見入ってしまいました。

「あんた・・えっと、なんという名前だい?」

「エリです。あなたは?」

「ワシは・・そうだな、ミムとでも呼んでもらおうか」

「ミム・・・さん。わたし、あなたを探していたの。」

「それは知っていたよ。さっき釣り針を垂らしていたろう。
ちょうどよかったんで、足の裏を掻かせてもらったわい」

「それで・・・」

「で、どうするつもりだい?その赤いバケツにワシを入れて
家に帰るのかい?ずいぶん、狭すぎるようだがね」

「ううん・・・」エリは後ろにくくった髪を横に揺らせて答えました。「いいの。本当は釣り
上げたかったけど、それは無理みたい。本当に虹色のサカナさんがいたから、それでいいの。」

「ほほぉ・・・それでいいのかい?」

「きっと・・・いいと思うわ」

本当は、エリはススムやケンタに見せて自慢したかったのですが、この
大きさではとてもそんなことはできません。でも、このまま帰って話を
しても、ウソツキみたいに思われるかなぁ、とぼんやり思っていました。

それを見透かしたかのように、ミムは言いました。

「それじゃ、ワシだけが知っている秘密を見てもらえんかね。」ミムはちょっとエリを
覗き込むように顔を寄せました。「ワシも、他の仲間に信じてもらえん話があるんだ」

「どんなこと?」

「来ればわかる。さ、背中に乗って」

体を横にしてくれたミムの背びれのあたりにエリはおそるおそる歩み寄り、触って
みました。普通のサカナのようなぬるぬるした感触はなく、むしろ柔らかい細い毛が
一面に生えているようで、しっかりとミムの背中に乗ることができました。

「じゃ、行くから。しっかりつかんでいなさい」

ばしゃっ!という水を跳ねるような音と共に、エリを乗せたミムは急加速で空に登っていきました。


-4-

エリは、いつのまにか目をつぶっていたどころか、夢うつつにも似た感覚で、前を見ました。

「!・・・空!」

「お?気がついたかい?もうちょっとだ。」ミムが声をかけました。

「空・・・飛んでる・・・」頭上には数え切れないほどの星、そして下の雲は黄金色に輝いています。

「夢・・・じゃないよね・・」

「夢じゃないさ」ミムがすぐに返事をしました。「ワシと会ったのはエリの
夢の中だったじゃろ?その夢の夢だから・・・これは現実なんじゃよ」

「そう・・・なの???」エリはすぐには信じられない気分でしたが、
後ろになびく髪や頬にあたる冷たい空気は、とても夢には思えません。

「ほら・・・あそこに」ミムが前を見て、まっすぐ前の少し上に三日月があるのがわかりました。

「え?あそこまで行くの?お月さまに?」

「そうじゃよ」

もはやサカナのミムが空を飛んでいることの不思議さよりも、釣りの帰りにいつも
見上げているお月さまがどんどん近づくことにエリは夢中になっていました。

黄色いチーズのような三日月までもう少し、というところで、三日月の
中心あたりになにかが動きました。まつげの長い目のように見えました。
そして、円弧の内側には口のようなものが少し開いて・・

「なによ!ミムじゃない!どーしたの、こんな時間に」

三日月がかん高い声でしゃべりました。エリは仰天して
もう少しで背びれにかけた手を離してしまいそうでした。



-5-

「あんたを見せてやりたくてね」ゆっくりとブレーキをかけた
ようにしてスピードが緩んで、ミムが三日月に話かけました。

「エリ、こいつはヤム、っていうんだ。」
「あ・・ヤムさん。こんにち・・あ、こんばんは」

「で、用てのはなんなの」いらいらした口調でヤムが答えました。

「だから、あんたを見せてやりたかったんじゃよ。三日月とワシが知り合いだってことをね」

「そんなの、どっちでもいいことだわ」

「まあ、そういうなよ。あんたとワシがいればこそ、喜ぶ人達もいるじゃないか」

「イヤよ。そんなこと。見てなさい、わたしはもうすぐまんまるに太って人間の前にでてしまうの。
そういうときに、人間はみんな喜んでわたしを見るのよ。イヤだったらありゃしない」

「まあいいじゃないか。たしかに、ワシの仲間も、三日月がワシと話せると信じる者は少ない。
だから、エリ、見ていて欲しいんじゃよ。これが本当のことだ・・・って」

「うん」エリは目の前のことがとてもウソとは思えませんでした。
「三日月のヤムさん、とってもキレイ。私、いままで知らなかった」

ツヤのある小金色のヤムを見て、エリは本心からそう言いました。

「そう・・?ま、いいわ、今日は気分いいから、これ・・・あげる」

ヤムは、なにか小さな塊のようなものをエリに向かってほおってくれました。

「わぁ~・・これ・・星のかけら・・?」絵でみた星の形ではありません
でしたが、親指の先くらいの大きさのすこしいびつな楕円形のオレンジ色の
塊は、息をするように、光量や色が変わってみえました。

「時々、あたしに飛んでくるの・・痛いったらありゃしない。
でも、これならエリ?だったっけ。好きでしょ?」

「うん!好き!」

「よかった・・。あ、そうそう、そろそろ夜が明けるわ。早く帰った方がいいわ」

「じゃ・・・エリ、しっかりつかまってるんだよ。」最初の時とはうってかわって、
にこにこした目のヤムに見送られて、エリも精一杯手を振りました。

「よく覚えておくんじゃよ」ミムが言いました。「エリ、あとでまた、
私たちを探してみなさい。きっといい日が訪れることになる。」



-6-

目覚まし時計の音で目が覚めると、エリは自分のベッドにいました。
ミムのことも、あの背びれの感触も覚えているはずなのに、なにも
なかったかのように慌しく母親からの声が聞こえます。
「エリ!学校遅れるわよ!」

それから、何度もエリは池に行きましたが、二度とミムに会うことはできませんでした。

ヤムにもらったはずの、あのオレンジ色のかけらも、見つかりません。

でも、あのときのどきどき感を忘れることはなかったし、
それはエリだけのヒミツにしていても満足なのでした。


ある日、エリはタイクツなTVに飽きて、でたらめな選局をしていました。

ふと気がつくと、「真夜中の虹」という番組が映っていました。

遠い外国にある、国境のおおきな滝では、夜中に虹が見える、というのです。

なかなか見えない虹の取材の経緯を経て、やっとそのシーンが流れてきました。

「!!」

エリは目を見張りました。

満月の夜中の虹、それは暗く見えるけれども、ミムの姿に見えました。
もちろん、ミムだけではなく、無数のミムの仲間・・・そして、
空に浮かぶ満月は、・・・・ちょっと不機嫌な、あのヤムに思えたのです。

「こういうことだったんだ・・」

年に数回しか見ることのできない偶然の賜物・・それを実際に
見ることができる人には幸運が訪れるといいます。

TVに見入るエリの後ろで、母親の声が聞こえました。

「エリ、服のポケットに石、入ってたわよ。オレンジ色の。いるの?いらないの?」

エリは振り向き、大急ぎで母親のそばに駆け寄り、大事そうにうれしそうに
オレンジ色の石を両手で受け取りました。














[あとがき]

ふと訪れたR*Kさんのブログで見かけた、月とサカナの絵がきっかけでした。
絵本なんて、専門でもなく、マネッコで書いてみました。
話のデキの良し悪しよりも、R*Kさんのイメージが崩れないことを祈ります。
special thanks for □うちん□さん。